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【Book Review】『字幕の花園』(戸田奈津子・著)/字幕翻訳の第一人者が語る“映会話”と字幕翻訳のウラ話

字幕の花園
著者:戸田 奈津子
出版社:集英社 / 発売:2011年
価格:絶版 / kindle版:506円(税別)

「洋画に出てくるような英会話を身につけたい」「字幕翻訳の仕事の流れを知りたい」

このような思いをお持ちの方にご紹介したいのが、戸田奈津子さんの書かれた『字幕の花園』です。戸田さんについて知らない方はいないでしょう。 ハリウッドスターが来日する際には通訳も務め、メディアへも多く露出されている、字幕翻訳の第一人者ですね。

本書は、今は廃刊となってしまった映画雑誌『ロードショー』の連載企画「BRUSH UP YOUR ENGLISH!」をまとめたものです。映画に登場する気の利いたセリフ(=“映会話”)の解説や、戸田さんの実体験に基づく字幕翻訳のウラ話、さらにハリウッドスターとの交流などについて書かれています。

まず冒頭では、字幕翻訳がどのように日本にもたらされ、根付いていったのか、という興味深い話があり、日本における字幕翻訳の変遷がよくわかります。字幕翻訳の基本といわれる“1秒間4文字”というルールがどのように生まれたのかを知っていますか?字幕翻訳を志すなら、知っておきたい内容ですよね。

そして本編では、全部で90本の映画作品を通じて、英会話を学んでいきます。作品は2000~20008年に制作されたもので、人気シリーズ『スター・ウォーズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』、アカデミー作品賞に輝いた『シカゴ』などが取り上げられています。有名作品が多いので、みなさんが知っている作品も多いでしょう。ドラマやアクション、ミュージカルといったジャンルごとにまとめられ、とても分かりやすくなっていますよ。それらの作品に登場するワンシーン・ワンフレーズを取り上げ、その意味やセリフの背景を解説してくれます。

例えば、ニコラス・ケイジ主演の『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』に出てくる”Connor rocks!”というセリフ。この”rock”は「ノッてるぜ!」「イエ~イ!」という気持ちを表す動詞であり、このセリフは「コナーは最高!」といった意味になると解説があります。さらに、”Nick rock in National Treasure!”(=『ナショトレ』のニック、最高!)、”Hey, you are rocking!”(=きみ、イケてるよ!)といった応用の例文も挙げられます。

作中のセリフだけでなく、取材の合間にキャストが発した言葉の紹介もありますよ。まさにリアルな英会話ですよね。字幕翻訳を勉強している人は、英語表現の引き出しが増えることでしょう。

また、この本で面白いのは、ウラ話が満載という点です。その作品の字幕担当をすることになった経緯や、監督・キャストが来日した際のインタビューのウラ話、字幕作成での苦労した話など、実体験に基づくリアルなお話をしてくれています。

人気の『ハリー・ポッター』シリーズについてのお話もありますよ。第1弾『ハリー・ポッターと賢者の石』は、日米同時公開で、そもそも字幕制作の時間が少なかったそうです。その上、SFXの作業に時間がかかり、公開間近になってもフィルムが送られてきませんでした。そして、やっと届いた未完成の作業用ビデオを見てみると、画面が真っ黒で、話している登場人物の顔と口しか見えない状態だったのです。周りの状況がわからないなかで翻訳を進めなければならない。想像するだけでも、とても大変だとわかりますよね。

また後半には「スターと私のナイショ話」と題して、公でない場でのハリウッドスターたちとのエピソードが書かれています。記者会見で良い回答ができなかったと落ち込むキアヌ・リーブスを励ました話や、ロバート・デ・ニーロが日本で家族旅行をする際に、コーディネーターを務めて一緒に箱根などを回った話などです。スターたちと良い関係を築いている戸田さんだからこそ語れるお話ばかりで、スターたちが普段は見せない一面を垣間見ることができますよ。

このように本書『字幕の花園』では、英会話だけではなく字幕翻訳のウラ話やハリウッドスターたちの意外な一面など、たくさんのことを学べます。英語の解説も書かれているとお伝えしましたが、この本は学習書ではなくエッセイ集のように気軽に読める一冊です。 翻訳の勉強をする合間などに少しずつ目を通しても良いですね。自分が字幕翻訳者として仕事をしている姿を想像したり、全編を通して伝わってくる戸田さんの映画に対する愛情を読んだりすると、モチベーションも上がるでしょう。

英語の勉強はもちろん、字幕翻訳という仕事をより具体的にイメージするためにも、字幕翻訳者を目指す方は一度読んでみてはいかがでしょうか。

紙書籍は
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KINDLEは
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【執筆者】
安永 サヤ(やすなが・さや)
技術翻訳者(英語)兼、Webライター。映画鑑賞が趣味で、年に100本ほど鑑賞しています。翻訳者の目線から、字幕翻訳に役立つ本をご紹介していきます。

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