字幕翻訳者のためのお役立ち情報サイト「vShareR CLUB」。このサイトは字幕翻訳を動画で学べるウェブサイト「vShareR SUB」の姉妹サイトです。 vShareR SUBはこちら

【翻訳者エッセイ:わたしと字幕翻訳 3人目】転機は『24 -TWENTY FOUR-』

【今回の執筆者】
田崎 幸子(たざき・ゆきこ)
映像翻訳者養成学校の講座を3年間受講し、2005年からフリーランスの字幕翻訳者に。主な翻訳作品は『24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』『FBI:特別捜査班』『マッドメン』など。

目次

仕事に変化を求めて翻訳の勉強を開始

映像翻訳の仕事を始めて、あっという間に15年ほどたってしまいました。以前は外資系の会社で秘書の仕事をしていたのですが、変化の少ない仕事に物足りなさを感じて、翻訳の勉強をしてみようと思い立ったことがきっかけです。海外の映画やドラマが好きだったので映像翻訳を選び、「映像テクノアカデミア」の無料体験クラスを受けてみました。この時、映像を見ながらセリフを字幕にするのが、たまらなく楽しいと感じて学校に通い始めました。

最初の仕事は在学中に頂きました。学校でドキュメンタリー番組のナレーション翻訳のトライアルがあって、運よく受かったんです。学校では、アダルト向け番組の翻訳のお仕事も頂きました。ギャラは破格の安さでしたが、この時にエッチなジョークや際どいセリフを訳す経験ができて、のちの仕事に大変役立ちました。3年ほどの在学期間中には、講師の先生や学年の違う生徒さんとも飲み会を通じて交流し、いろいろ情報交換させてもらいました。この時に知り合った方たちとの人間関係が、今も仕事をするうえで大きな支えとなっています。

翻訳学校を卒業したころに、勤めていた会社が日本から撤退することになりました。退職金と失業手当を手にして気が大きくなった私は、就職活動をする代わりに、字幕制作ソフトSSTを購入して使い方を覚えました。今考えると無謀な選択ですが、ちょうど制作会社でSSTが使われ始めた時期だったので、SSTでスポットも取れるなら、ということで少しずつお仕事を頂けるようになったんです。

ジャック・バウワーの早口に苦しむ

とはいえ、学校を卒業して3年くらいは、翻訳で食べていけるほどの収入などありません。頼みの退職金は底をつきかけました。自分の甘さを反省していたところに、翻訳学校で字幕を教えていただいた林完治先生から『24 -TWENTY FOUR-』のお仕事を頂いたんです。エピソード数が多いうえに、スケジュールも厳しいお仕事だったので、私の訳を林先生が手直しするという方法で、6シーズン関わらせていただきました。本編の他にDVD用の特典映像のお仕事もあったので、このドラマだけで半年ほどスケジュールが埋まり、翻訳のお仕事が軌道に乗りました。

駆け出しの私が話題作に関われたのは幸運でしたが、実際の仕事は非常にハードでした。ジャック・バウワーはじめ『24』の登場人物はそろって早口で、激しいアクションをこなしながら、かなりの量のセリフをしゃべります。短いセリフの中に必要な情報を入れ込むのが難しくて頭を抱えました。必死に訳しても先生が手を入れると、私の訳は跡形もなくなっていることがよくありました。先生には「もっと素直に訳しなさい」と何度も言われたものです。場面とキャラクターを考慮して、英語に合った日本語にしろという当たり前のことですが、これが難しい。訳しづらい部分を何となく逃げて訳すと「上っ面をなぞったような字幕だ」と言われました。情けなくて涙が出たこともありますが、プロになって仕事を頂くようになると、こういう厳しいことは誰も言ってくれなくなります。二度と仕事が来なくなって終わりです。そんなことにならないよう、先生に言われた数々の苦言、いえ“金言”を今も思い出しながら翻訳しています。

特に印象に残っている作品は『24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』です。これは『24』シーズン8から4年たって作られた続編で、エピソード数が少なかったこともあり、初めて1人で字幕を担当させていただきました。緊張しましたが、制作や監修のご担当者が4年前と同じ方たちだったので、支えていただきながら乗り切りました。昔 住んだことのあるロンドンが舞台だったことも翻訳の助けになりました。

24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ
SEASONS ブルーレイ・ボックス 6,225円(税別)
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
All Rights Reserved.

作品の魅力を素直に伝えられる翻訳を

トライアルを受けて担当させていただいた『マッドメン』シリーズも忘れられないドラマです。舞台は60年代ニューヨークの華やかな広告業界。ケネディ暗殺などの史実が絶妙にドラマにからみ、ユーモアの効いたセリフが素晴らしい作品です。当時のアメリカは、今とは比べものにならないほどの圧倒的な男性社会でした。ドラマの中の女性たちも、ひどい男女格差やセクハラと闘いながら、時には男性を踏み台にしてのし上がっていきます。その強さにエネルギーをもらいながら訳したことを覚えています。

去年は映画のお仕事も何本か頂きました。ジョン・トラボルタ主演の『スピード・キルズ』は、パワーボート界の頂点に上りつめた実在の人物の波乱万丈な人生を描いた作品です。トラボルタの存在感は圧倒的で、それに見合う訳にしなくてはと悩みました。

スピード・キルズ
DVD 3,800円(税別)
発売:ニューセレクト

振り返ってみると、つらいことも山ほどありました。仕事がぜんぜん来なかったり、仕事が重なって徹夜続きになったり。でも難しいセリフに、ぴったりの訳を思いついた時のうれしさは格別です。作品の魅力を素直に伝えられる翻訳を目指して、これからも頑張っていきたいと思います。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次