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【映画翻訳者インタビュー】アンゼたかし氏「脚本を脚本どおりに翻訳する」

vShareR SUBで公開している音声コンテンツ『映画翻訳者インタビュー:アンゼたかし氏』の一部をテキスト版に編集しました。

【プロフィール】
アンゼたかし
大学を卒業後、翻訳学校フェロー・アカデミーで矢田尚氏に師事し、映像翻訳を学ぶ。2年間の通学を経て、CDの歌詞対訳やライナーノーツの翻訳を始める。その後、吹替翻訳で映像翻訳者としてデビューし、現在は字幕・吹替の両方で活躍。フェロー・アカデミーで講師も務める。
字幕翻訳を手がけた主な作品は、『ジョーカー』『シャザム!』『アクアマン』『ジャスティス・リーグ』『ワンダーウーマン』『ダークナイト ライジング』『マッドマックス』『インターステラー』『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』「ハングオーバー!」シリーズなど。吹替翻訳は『ブレードランナー 2049』『ゼロ・グラビティ』など。

目次

翻訳者になったきっかけ「無理だなあ、サラリーマンは」

──翻訳者になったきっかけは?
大学生のとき、まわりがスーツを着て就職がきまるなか、自分がサラリーマンになった将来をまるっきり想像できなくて、「無理だなあ、サラリーマンは」ってほかの仕事をいろいろ探した結果が「翻訳」でした。大学卒業と同時に日本翻訳学院(現:フェロー・アカデミー)に入学しました。

──翻訳の仕事はいつごろから?
学校が翻訳のアルバイトを募集してて、応募してトライアルに受かったので、入学した年からOJT的なことはやってましたね。2年ほどいろんなクラスを受講して、その後は5年くらいはバイトとか、独学で勉強してました。でも、ずっとバイトしててもしょうがない、フリーランスになろう、と。そんなときにフェロー・アカデミーで知り合った人が訳詞の仕事をしてて「やらない?」って。たしか、Dr.Feelgoodの訳詞です。実務系の翻訳仕事も回してもらったりもしました。来る仕事はなんでも、という感じです。

──そこから映像翻訳に絞っていったんですか?
いやー、しばらくはロマンス小説や実用書の翻訳、訳詞、映像のちょっとしたシリーズものの翻訳とか、全部平行してましたね。フリーになって5、6年くらいはどの道にいくかわからなかったですね。もちろん、本か映像に将来的には行きたいなとは思っていたけど、ほんとにやっていけるかなっていう……。

──どのように映像専門に?
フェロー・アカデミーで映像翻訳を学んでいたときに、矢田尚さんっていうテレビの吹替版の仕事を主にやっていた先生に師事してたんですけど、矢田さんから「WOWOWの番組の下訳をやってみないか」って。下訳をしているうちに「じゃあ、ちょっと引き継いでくれないか」ということになったのが最初の映像翻訳ですね。WOWOWのシリーズをやり始めてから、「こっちの番組も」「次こっちの番組」ってやっていくうちに、長尺ものをやらないかって声がかかって、そこからどんどん広がっていって、「ああ、これだったら映像一本にしようかな」という感じです。

──映像翻訳者としてのキャリアは何年ぐらいになるんですか?
30年ちょっとじゃないですか。

翻訳の心がけ「脚本をなるべく脚本どおりに」

──翻訳する際に心がけていることはありますか?
「脚本をなるべく脚本どおりに」っていうことですかね。英語のものを日本語にするので、まんまっていうわけにはいかないですけど、それでもその脚本の色とか個性とかをなるべくそのまま日本語でもわかるように、っていうふうにいつも思っています。

──意識してもなかなか難しいような気もしますが……
慣れっていうか、こなす数もあると思います。それによって、この脚本のここがいいところ、とか、味なんだっていうのは見えてくる。最初は一生懸命おもしろくおもしろく訳そう、おもしろさを伝えよう伝えようってことばっかりにたぶん目がいってしまうと思いますが。

──いい訳が思い浮かばないときは?
まずトイレに行きます。トイレに行って、座って、立つ瞬間にけっこう思い浮かぶことってあるんですよ。別のことをした瞬間にふっと思いつくんだと思うんですよね。だから、ずっと同じ椅子に座ってるときっと思いつかない。いったん離れる。

仕事環境「ヘッドホンはKOSS」

──現在の仕事環境を教えてください
パソコンはデスクトップでマルチモニターにして原稿と映像を表示します。スクリプトはiPad Proで見ています。いちばん大きいサイズのiPad Pro。辞書はパソコンに表示できる「PASORAMA」の機能が使えるセイコーさんの電子辞書です。あとは、ネットで英辞郎やUrban Dictionaryを使っています。

──セイコーが電子辞書事業から撤退したのでいまは買えませんね……
そうなんです。だから、フェロー・アカデミーの受講生にはいまはヤフオクやメルカリとかでしか手に入らないと伝えてます。PASORAMAが便利なのはパソコン上で見られるからであって、一括検索はほかの辞書でもできるので、とにかく最新の辞書が入っている電子辞書を買ったほうがいい、っていう話をしてます。

──ヘッドホンは?
ヘッドホンは吹替翻訳者にとってはなくてはならないものでいろいろ試したんですけど、アメリカのKOSSっていうメーカーのヘッドホンが軽くて、音の抜けがよくて、いろんな音までちゃんと聞こえてくるんで、すごくいいです。PORTAっていう機種がいちばん有名かな。軽いんですよ。締め切り前は一日中つけてますけど、首とかも疲れません。

翻訳のペース「1日に字幕は200枚」

──年によって異なると思いますが、1年間の翻訳作品数は?
劇場作品は10本前後じゃないですかね。そのほかの仕事はその合間になので、そんなに多くはないです。

──字幕と吹替の割合は?
いまは字幕7で吹替3ぐらいですけど、何年か前は吹替のほうが多かったです。

──違いはありますか?
やっぱり言葉のチョイスですかね。吹替は実際に俳優がくちを開いてしゃべっているので、その勢いとかもあるし、選ぶ言葉も違ってきます。

──1日にどのくらいの量を翻訳しますか?
字幕は200枚ぐらい、吹替だと10分ぐらいは最低やらないと納期に間に合わないので、それを目標にやっています。

※ 業界では1度に表示される字幕を「1枚」とカウントする。120分の映画は平均1000~1200枚

──1日どのくらいの時間を翻訳していますか?
どうでしょうね。朝起きるのは早いので、5時か6時くらいから仕事をして、17時までやったとして、けっこうな時間、仕事してます。あいだに休んでますけど。昔は夜中にずっと仕事してたんですけど、体に悪いですし、夜中に仕事して朝に寝てると子どもと顔を合わせられないじゃないですか。

──「土日は休み」とかは決めてますか?
いや、決めてないです。逆に土日はみんなが休んでるから仕事したいですね。スケジュールが空いたときや、締め切りが終わってチェックも終わったときに「休むぞ」「飲むぞ」って感じです。

若い世代の翻訳者へのメッセージ「仕事は誰かが必ず見ています」

──映像翻訳の醍醐味は?
自分で映画はなかなか作れないじゃないですか。すごい大金がかかってるし、大スターが出てるような、超一流の監督で、超一流の脚本で、音楽もハンス・ジマーで、みたいな。そういうのって、普通に生きてたらお金を払って観る側でしょ。でも、映像翻訳をしていると制作サイドのほうに関われる。そこに関わる責任を考え出すと大変だけど……。

──これから映像翻訳を始める人が劇場作品の翻訳を手がけるには何が必要ですか?
スキルと運じゃないでしょうか。ただ、スキルのある人でも仕事につながらない人もいます。でも、最終的にはやっぱりスキルなんだと思います。

プロ野球でも、すごいすごいって言われてるのになかなか大成しない人と、四番になって何十本もホームラン打つ人がいて、その差は何なのかっていうと、やっぱりスキルだと思う。そこにプラスしてちょっとした運……、誰に起用されるかとかね。イチローと仰木監督みたいな。そういうのはあるかなあと思います。

仕事は誰かが必ず見ています。製作者だけじゃなくて、もちろん視聴者もいるし、他の制作の人も見ているかもしれない。一本一本、手を抜かずにやっていけば必ず評価されると思うので、地道にやっていくしかないですね。あとは、ほんと体力勝負なので健康は大事に。

vShareR SUBでは『映画翻訳者インタビュー:アンゼたかし氏』のフルバージョンを公開しています。独学の話映像とスクリプトを受け取ったあとの仕事の手順(セリフの尺の長さを意識しずぎない「ざっと翻訳」の話)定期購読している雑誌の話……などなど。

アクセスはこちらから→ vShareR SUB

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