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【映像翻訳者インタビュー】中沢志乃氏『アリス&ピーター・パン はじまりの物語』~作品のムードを壊さない字幕を~

※中沢志乃さんが字幕を翻訳された映画『アリス&ピーター・パン はじまりの物語』が11月24日(水)15:00からWOWOWでご視聴いただけます。詳しくはWOWOW公式ホームページにてご確認ください。

【プロフィール】
中沢志乃(なかざわ・しの)
幼少期をスイス、デンマーク、アルジェリア、高校時代をアメリカで過ごす。上智大学比較文化学部卒。日本弁護士連合会を経て、日本語版制作会社ACクリエイトに転職。2002年に映像翻訳者として独立。字幕翻訳を担当した主な作品に『ビルド・ア・ガール』『チャーリーズ・エンジェル』『アラジン』『ホテル・ムンバイ』『search/サーチ』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『モアナと伝説の海』『ファインディング・ドリー』『スノーデン』『シチズンフォー スノーデンの暴露』『はじまりのうた』など。

目次

日本と世界をつなぐ架け橋に

――字幕翻訳者を目指したきっかけは?
とにかく子供のころから映画が大好きだったことと、英語がとても身近なものだったことです。私はスイスで生まれたんですが、その後も日本と海外を行ったり来たりする生活だったので、英語は自然と身に付きました。18歳で日本に帰国して大学に行き、卒業後は人権関係に興味があったので日弁連(日本弁護士連合会)に就職しました。ただ当たり前なんですが、そこでの仕事はすべてが日本語で、英語は一切使うことがありませんでした。英語とまったく関わらないという環境に違和感を覚えてしまって、半年後には「違う道に進もう」と考えていました。

元々、高校生の頃から「外交官」か「映画に関わる仕事」に就きたいと思っていました。ベタな言い方ですが「日本と世界をつなぐ架け橋になる」ような仕事をしたいと思っていたんです。「外交官」も「映画」も日本と世界をつなぐことができるという意味では自分の中で同じでした。そして外交官試験はすでに落ちていたので、日弁連の次の道を考えた時に、じゃあ映画だ!と思って字幕翻訳者の道に進みました。

目指せ、30歳で独立

――字幕翻訳の学校は?
日弁連で働きながら、「フェロ-・アカデミ-」の1年半の基礎コ-スに通いました。そこでアンゼたかしさんの授業を受けたり、レッスン後にクラスメ-トたちと飲みに行ったりしながら楽しく通いました。字幕翻訳への道は「狭き門」と言われたりもしますが、学校に通っている間はそんな不安も感じず、勉強したら翻訳者になれると思っていました。無謀にもその時は、学校が修了したらすぐ翻訳者として独立するつもりだったんです。今思えば、しなくてよかったなと思います。もしそのまま独立していたら、どこかで伸び悩んで挫折していたかもしれません。

フェロ-に通って2年目に、字幕制作会社で制作の社員を募集しているのを見つけました。それがACクリエイトです。私を含む数人が応募したところ運よく合格し、そのまま日弁連を辞めてACクリエイトに入社しました。

――ACクリエイトでのお仕事はいかがでしたか?
制作の仕事では表記や字幕ル-ルから始まり、字幕制作の仕事の流れなど、学校で学ぶことの何十倍ものことを学んだと思います。また営業を担当していたこともあるので、そこで培った人脈は翻訳者として独立した後にとても助けになりました。

入社した時からいずれ翻訳者として独立したいということは会社にも伝えていました。制作会社にもよると思いますが、ACクリエイトは独立にとても理解のある会社でした。実は私の独立のタイミングを決めてくれたのも、ACクリエイトの社長であり字幕翻訳家でもある菊地浩司さんなんです。当時私は20代半ばだったのですが、ある日突然、菊地さんに「よし、30歳で翻訳者になれ」と言われたんです。それで自分でも「5年は制作として頑張ってから独立しよう」とタイムラインを決め、実際に30歳の時に翻訳者として独立しました。

大人向けのおとぎ話 『アリス&ピーター・パン はじまりの物語』

『アリス&ピーター・パン はじまりの物語』

あらすじ(WOWOWより抜粋)
ロンドン郊外。夫妻のジャックとローズには3人の子ども、兄デヴィッド、弟ピーター、妹アリスがいた。一流校に進学が決まったデヴィッドだが、突然の事故で命を落としてしまう。ジャックとローズは深く悲しむが、ピーターとアリスはなんとか両親を励まそうとする。ジャックにはギャンブルで作った借金の問題もある。やがてピーターとアリスはそれぞれ、「ピーター・パン」「不思議の国のアリス」の世界に行ったような幻想を見る。

WOWOWにて放送予定
・11月11日(木)21:00~
・11月24日(水)15:00~
詳細はWOWOW公式ホームページをチェック!

――どのような作品でしょうか?
ネタバレになるのですべては言えませんが、これは簡単に言うとアリスとピ-タ-・パンのお話です。翻訳にかかる前にまずこの映画を見て、そのあと『不思議の国のアリス』と『ピ-タ-・パン』の映画を参考に視聴し、それからもう一度本作を見たら面白さがぐっとアップしました。アリスやピ-タ-・パンの物語はだいたい知っていると思っていましたが、細かい部分は覚えていないものですよね。『アリス&ピーター・パン はじまりの物語』はそういう部分がたくさん反映されたお話なので、この作品を見る前にはアニメ版『不思議の国のアリス』と『ピ-タ-・パン』の映画を見て、復習しておくことをお勧めします!

――時代設定が古い作品ですが、それはキャラ設定に影響しますか?
時代ものの場合、キャラ設定や口調を決めるうえで時代は考慮します。例えば主人公一家のお手伝いさんが出てくるのですが、そのキャラの口調をタメ語にしていたところ、制作会社の方から「時代もありますし、ですます調にしませんか?」とご提案頂き、私もそこは元々迷っていた箇所だったので最終的に「ですます」にしました。やはりそちらにしてよかったと思います。

――既存のキャラクタ-が出てくる作品を翻訳するプレッシャ-はありましたか?
プレッシャ-というのは特に感じませんでしたが、既存のキャラクタ-を意識することはします。例えば今回だとアリスに登場する「赤の女王」といった固有名詞とか、「首をはねよ!」みたいに誰もが知っているセリフってありますよね。そういうのは一般的なイメ-ジから大きく外れないように気を付けます。

――苦労した点はありますか?
当時のロンドンの情景を描写するシ-ンがあるのですが、それが英語的にもとてもふんわりした抽象的な表現だったので難しかった記憶があります。情景の雰囲気を壊さず、でも抽象的になりすぎないようにちゃんと伝える表現を探るのに苦心しました。時代設定のせいもありますが、とにかく全体的にとても雰囲気のある作品なので、そのム-ドを壊さないようにする、ということを意識していました。

あと、苦労というわけではありませんが「インディアン」という単語についてひと悶着ありました。「インディアン」は一般的に差別用語として使用を避けるべき単語とされています。ただこの作品は時代設定も古いですし、問題になるような使われ方はされていなかったので「インディアン」のままで制作を進めていたのですが、最後の段階で映倫からNGが出て変更を余儀なくされました。こういった用語の扱いは難しいですね。

――最後に、映画の見どころを教えてください
おとぎ話を扱っているので子供向けと捉えられがちですが、個人的にはむしろ大人向けの映画だなと感じます。もちろんファンタジ-ですし、お子さんが見ても楽しいと思いますが、大人にならないと理解できない部分も多いと思うので、大人の皆さんにもぜひ見て頂きたいなと思います。

字幕翻訳の学習サイト「vShareR SUB」では中沢志乃さんのロングインタビューを公開予定です。翻訳者としてのキャリアや転機、映像翻訳という仕事についてたっぷり語っていただきました。

【執筆者】
梶尾佳子(かじお・けいこ)
フリーランスの字幕ディレクター兼ライター。日本語版制作会社の字幕部にて6年勤務した後、独立してフリーランスに。翻訳を含め、言葉を扱う仕事に関する様々な情報や考えを発信していけたらと思っています。

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