さて皆さん、囲碁は強くなりたいですか?
囲碁が強くなるには、まず数ある定石を覚えることです。適当に打っていては勝ち目はありません。ちなみに定石は1万以上あるそうで、100~200も覚えれば初級者の仲間入りができるようです。「なぜ囲碁の話?」と思われるかもしれませんが、とにかく、基礎は大事です。1万も覚えるのは大変そうですが、千、2千と覚えるうちに、確実に強くなっていくことでしょう。
ですが、囲碁の世界には「定石を覚えて二目弱くなり」という言葉があるそうです。つまり、定石を頭で覚えるだけでは勝てないし、定石を実践で使えるようになっても、そのまま使うだけでは勝てない、ということでしょう。
と、「文章の裏ワザ」には関係なさそうな話から始めましたが、大丈夫です。著者の石黒氏も本書の中で「囲碁が好き」と言っていますので、合っています。
ということで、本書の紹介に入ります。
この本ですが、うまい文章を書くための「文章の定石」をまとめた本です。はい、「定石」です。大枠では「文法のルール」「文末のルール」「語彙のルール」「表記のルール」「構成のルール」という5つの文章術として整理され、それぞれ6~7個、全部で33個の定石を紹介しています。
- テニヲハはきちんと守る
- 主語と述語は対応させる
- 長い文は読みにくい
- 漢語を使うと文章が硬くなる
- 外来語が多いと意味不明になる
- 語は厳密に使う
- 漢字が少ないと読みにくい
- 迷ったら平仮名がよい
- 表記は統一しなければならない
- 接続詞は文章を読みやすくする
「文章の定石」とは、これら、どこかで聞き覚えのある、もしくは、自然と頭に浮かぶような文章を書くときの注意点がそれにあたります。本書では、それらの定石が、例文や問題を通して理解できるようになっています。石黒氏らしく、すっきりとした文章で説明されているので、すらすらと1日で読めてしまう本です。また、各定石は6ページほどで簡潔にまとめられているので、興味を持った定石だけをピックアップして読むのもいいでしょう。
と、まず基礎としての定石を知るのにもいい本なのですが、実は、この本の主眼は、そこにはありません。定石を破る定石(=裏ワザ)をまとめた本です。要は、定石を定石どおりに使うだけでは、第一線の魅力的な文章は生み出せないということでしょう。各定石6ページは、3ページずつ、文章を書く基礎となるオモテの定石と、それを破るウラの定石がセットで構成されています。つまり、33の定石には、33の超定石があります。
この超定石は、小説家や詩人、コピーライターが使うテクニックです。著者いわく、
オモテでは、初級者が中級者になるために必要な文章の定石を紹介しています。
ウラでは、中級者が上級者、さらにはプロになるために必須の創造的な技術を紹介しています。
ということです。
谷崎潤一郎は「文章読本」のなかで、文章の上達法として2つ挙げています。一つは「感覚を磨くこと」、もう一つは「文法に囚われないこと」。字幕翻訳に小説ほどの自由度はありませんが、それでも翻訳は十人十色。超定石を知ることで、ひと味違った翻訳を生み出す発想が得られることでしょう。
ウラの定石は翻訳に役立ち、オモテの定石は翻訳の見直しに役立つ、実にコスパの高い本です。
【執筆者】
関根 和久(せきね・かずひさ)
字幕制作歴30年ののち、現在はポニーキャニオンエンタープライズにて、映像制作、音声制作、字幕制作の制作総括。「現役中に出会えていれば~。」と思えた書籍を紹介していきたいと思います。