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【Book Review】『新装版 英和翻訳表現辞典』中村保男・著/「辞書にない訳語」と訳出表現を考え抜くためのヒントが満載

『新装版 英和翻訳表現辞典』
著者:中村保男
出版社:研究社 / 発売:2019年
価格:5400円(税別)

翻訳者が翻訳をする際に欠かせないものの一つに、「辞書」があります。本記事をお読みの皆様も、用途等に応じて多様な辞書を普段からお使いのことと思います。そして、訳出に困ったら参照するものが辞書という方も大勢いらっしゃるはずです。しかし、辞書をいくら引いても「どう訳そうか困る」という場面に遭遇したことがあるという方も少なくないのではないでしょうか?

今回ご紹介する「英和翻訳表現辞典」は、字幕翻訳でぶつかりがちな壁とも言える「翻訳の最中に辞書を引いても何となくその表現がぴったりと文脈に合わないとき」あるいは「文字数の制約のために表現を大胆に工夫せねばならないとき」など、「どう訳そうか困る」と悩まれたら是非参照して頂きたい辞書です。

是非参照していただきたいと申し上げる理由は、本書が「辞書にない訳語の辞書」を目指して作られているからです。この辞典は、通常の辞書のようにアルファベット順にさまざまな英単語が840ページに渡って解説されています。しかし、「解説」とは単語の意味の羅列では決してありません。「辞書に載っている意味以外で訳出するためのヒント」が、歯切れのよい文体で説明する形で書かれているのが、本書最大の特徴です。つまり、意味が並んで書いてあるのではなく、単語に対して解説文が書かれているというスタイルとなっています。

著者の中村保男先生は、2008年に逝去されていますが、英語・翻訳に関する著書を多数執筆され、翻訳では主にSFやミステリーを手掛けられていた著名な翻訳者です。豊富な翻訳経験をもとにして、訳出のためのヒントが惜しみなく本書解説に散りばめられています。

本書ではどのように語句が解説されているのか、automaticallyという単語を例にご紹介します。automaticallyは通常の辞書を引くと「自動的に」「機械的に」等の意味が掲載されているのではないでしょうか。もちろんこのような訳し方もできると、本書でもことわりが入っていますが、解説ではさらに具体的な英文も例示しながら「短絡的に」「当然」「無意識の」「自然の成り行きで」「習慣の惰性で」などの訳し方についても詳説されています。automaticallyという1つの単語だけを取り上げても、通常の辞書には載っていないような訳し方が5つも示されており、それぞれになぜそのような訳出に辿り着くのか、考え方のプロセスを理解することが可能です。「訳出のためのヒント」を多く得られることでしょう。

本書で扱われている語句は、ごく初歩的・基本的な英単語から、ネイティブがよく使う慣用句までバラエティに富んでいます。品詞についても、名詞・動詞はもちろん、前置詞や冠詞についてもさらに理解を深められる解説がされています。訳すのに困った経験のある語句は必ず何らかのヒントが出ていると言っても過言ではありません。

実際に、一般的な辞書では「優雅」と説明されているgraceを、本書を参考にして「風格」と訳し直したことがあります。その他にも、contribute(貢献する)を「助長する」、understandable(理解できる)を「無理もない」と訳すなど、何度も助け舟を出してもらいました。

このように、本書の使い方は、もちろん通常の辞書と同様に「辞書引き」の形も可能です。ところが、著者の中村先生が冒頭でおすすめしている本書の使い方は「読む辞書として通読」です。本書を通読することにより、「英文中の語句をその文脈内において把握し、関係づけ、最高度に適訳する習慣、能力、素養を身につける」ことができると述べられています。参考書のように通読することで、語彙力を増やすことはもちろん、各語句の解説と例文から「翻訳のための指針」を理解するのに大いに役立つはずです。 辞書引きしても良し、通読しても良しの本書は、訳し方に困る語句に対して表現のヒントを与えてくれます。実務で参照するのはもちろんのこと、翻訳を学習中の方も辞書引き・通読を通して、通常の辞書にはない訳し方に至るためのプロセスを身につけられる一冊です。

【執筆者】
米原 春香(よねはら・はるか)
北海道大学大学院農学院修士課程修了。在学中は英語研究会所属。公的機関におけるバイオ・食品関連の研究員を経て、2017年より産業翻訳者・ライターに。産業翻訳では主にビジネス・食品・観光等の分野を扱う。最近では、企業プロモーションビデオ等の字幕翻訳も数件担当。映像コンテンツの需要が今後増すであろうと考え、これを機に映像翻訳系の書籍で少しずつ学習し始めた。

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