海外の映画、ドラマを翻訳するにあたって悩むポイントのひとつが「キャストやスタッフの名前の表記」です。よくあるのは映画の特典映像や予告の翻訳の時。特典映像というのは主に作品のメイキングや監督・俳優のインタビューですが、インタビューでは必ず話し手である監督や俳優の名前と肩書がテロップで入るので、その表記を正確に字幕で出す必要があります。基本的にはその作品の日本語公式ホームページを確認してその表記に合わせますが、タイミングによっては公式ホームページが存在しない、存在していてもマイナーなキャストだと公式ホームページにも記載がない、という場合もよくあります。
そんな時に役に立つサイトが「allcinema」です。これは日本で公開された映画の情報や、そのキャストやスタッフに関する情報が掲載されている日本語のオンラインデータベースです。
例えばGary OldmanやGary Cooperは有名な俳優ですが、いざ名前のGaryを表記しようとすると「ゲイリー」「ゲーリー」どちらだろう、と迷うことはないでしょうか。どちらも英語の読み方としては間違いではないのですが、そんな時に映像翻訳業界で「基準」として使われるのがこういったallcinemaのようなサイトです。
ゲイリー・オールドマン(Gary Oldman)について 映画データベース – allcinema
allcinemaに載っているからといって「ゲイリー・オールドマン」の表記が絶対的に正解というわけではありませんが、少なくともクライアントに「allcinemaではゲイリー・オールドマンの表記でした」という基準を伝えることで、クライアントとしてもその表記でOKかどうかの判断がしやすくなります。また、きちんとこういう下調べをしているということで信用度も上がるでしょう。
allcinemaは映画情報サイトなので、載っている情報は作品タイトル、公開年、あらすじ、主要キャスト、スタッフなど、以前ご紹介したIMDbと似ています。ただ大きく違うのは、こちらは日本語のサイトであり、日本語化された作品の情報データベースだということです。特典映像に登場するキャスト・スタッフの日本語表記をまとめて調べたい、作品のキャスト表を日本語で作成したい、という時にはとても役に立ちます。
以前は「全洋画ONLINE」という名称で洋画中心の情報サイトでしたが、今では邦画の情報も掲載され、さらにTVシリーズや劇場未公開でビデオ化だけされた作品なども調べることが可能です。インタビュー映像では俳優が、自身の過去の出演作や関連作品のタイトルを口にすることがよくあります。そういう時はタイトルを正確に訳出する必要がありますが、その作品に正式な邦題があるかどうかもここで確認できます。
他にも作品中の役名で聞きなれない名前や英語圏ではない名前が出てきた場合なども、allcinemaで検索してみると同名の俳優や監督がいることがあるので、そういう時は役名表記の参考にする、などの使い方もできます。
例えば、「Gajos」という役名の表記に迷ったとき。allcinemaで「Gajos」を検索するとポーランドの俳優「Janusz Gajos」がヒットします。
ヤヌシュ・ガイオス(Janusz Gajos)について 映画データベース – allcinema
「ヤヌシュ・ガイオス」と記載されていますので、表記は「ガイオス」であることがわかります。
ウェブで俳優名を検索するとまずWikipediaが出てくることも多いと思いますが、Wikipediaはオンラインの参加型百科事典です。世界中からの情報を共有できる代わりに、誰が書き込んだ情報なのかが特定できず信憑性に欠けるため、人物名の正式な日本語表記の情報源としては十分とは言えません。他のサイトではどうしても表記が見つからないようなマイナーなキャストの場合に参考にすることはあっても、表記の根拠としてWikipediaを挙げるのはできれば避けたいところです。
翻訳においては名前の表記ひとつとっても「何を基準にその表記にしたか」という理由が必要になります。そういう場合はallcinemaのように映画情報サイトとして広く認知されているサイトを使うのもひとつの方法です。他にも劇場公開情報やユーザーコメントなどを見ることができていろんな使い方が可能なので、映像翻訳においてはぜひ押さえておきたいサイトのひとつです。
【執筆者】
梶尾佳子(かじお・けいこ)
フリーランスの字幕ディレクター兼ライター。日本語版制作会社の字幕部にて6年勤務した後、独立してフリーランスに。翻訳を含め、言葉を扱う仕事に関する様々な情報や考えを発信していけたらと思っています。